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起業家ライブラリ

染谷 瑛二 氏

新たな教育サービスを確立し、プラットフォーマーをめざす

染谷 瑛二 氏

代表取締役社長 CEO
会社名株式会社Hutzpah(フツパ)
(旧RonTen)
ウェブサイトhttps://hutzpah.io/
事業内容コホート型教育プラットフォームの開発・提供

議事録作成支援サービスでピッチイベントに挑戦。学生部門で賞を獲得

 ビジネスはもちろんのこと、さまざまな場面で行われている会議。組織の意思決定には必要不可欠なものの、「何も決まらない」「いたずらに時間がかかる」など、不満を感じた経験を持つ人は多いのではないだろうか。また、会議につきものの議事録が不満の種になることも。作成自体に時間がかかるうえ、せっかく作っても誰にも活用されないことすらあるからだ。このような課題に風穴を開けるサービスが、染谷瑛二氏が代表を務めるRonTen(現Hutzpah)が提案した議事録作成支援サービスだ。

「サービスではまず、会議の過去のデータを収集・分析します。そして、『会議で話し合っておくべきこと』『次のアクションに向けて決めておくべきこと』など、会議の“論点”を抽出します。この情報を持ったうえで会議に臨むことで、生産性の高い会議を可能にします」と話す染谷氏。

ビジネスプランを発表した大阪イノベーションハブ主催のピッチイベント、「ミライノピッチ2021」では、見事に学生部門で賞を獲得。意気揚々と事業化へ歩み始めた染谷氏だが、現実は厳しかった。

hutzpah

「市場調査を行ったところ、『便利そうだけど、お金を出してまで利用したいとは思わない』という声が数多く集まったのです。確かに会議は非効率だし議事録を作るのは大変です。でも、どうしようもなく困っているのかと言われると、必ずしもそうではない。すなわち私たちのサービスは、コストに見合うベネフィットが提供できないと判断されたのです」

現実を直視し、染谷氏たちはサービスの事業化をここで断念。しかし、そこで立ち止まらないのが起業家の起業家たるゆえんだ。

現在新たに取り組んでいるのは、「コホート型」と呼ばれるオンラインでの教育事業。コホート型とは、離れた場所にいる複数の生徒がオンライン授業を同じ時刻に受講し、ともに課題に取り組み、切磋琢磨しながら学ぶスタイルの教育のことだ。ネットを介して配信される授業を生徒が一人で好きな時間に受講するという従来型のオンライン教育より、リアルな教室での学びに近いと言える。
「有名講師の授業を受けられるなど、オンライン教育の環境整備は進みました。ところが、生徒の離脱率は非常に高い。突き詰めて言えば、時間や場所、クラスメイトといった何らかの強制力があるからこそ、人は勉強を続けるのです。実際、コホート型教育の継続率は圧倒的に高いというデータがアメリカでは既に示されています。私自身、オンラインで家庭教師をしている経験からも、コホート型の有用性は実感しています」と染谷氏は言う。

コホート型教育は、まだ日本ではほとんど導入されていない。まずは染谷氏自身を含め、Hutzpahがコホート型教育を提供する講師集団となることが当面の目標だ。その次のステップとしては、「コホート型教育を提供したい」という教育機関や教育事業者に対して、システムとノウハウを提供するプラットフォーマーとなることをめざしている。

研究者志望から起業家へ。ピッチイベントへの参加を通して仲間を募る

染谷氏は、京都大学総合人間学部に在学する現役の大学生。3年生だが、現在は休学中だという。専門分野は脳波などから人の思考を読み取る技術を研究する脳情報学で、入学時には研究者を志していた。

しかし、研究から生み出された技術がほとんどビジネスに結びついていないことや、「50歳になってようやく一人前」という、いずれも日本特有の風土に疑問を感じる。結果、将来の目標をビジネスにシフトした。

「ビジネスへ方向転換して最初にしたのは、イスラエルの会社で働くことでした。イスラエルは『中東のシリコンバレー』と言われるぐらい、スタートアップ企業がひしめいているのです。そこで得た経験を活かそうと思って、日本ではスタートアップ向けの投資などを行う会社をめざして就職活動をしました」

投資を通じて起業家をサポートする仕事をめざした染谷氏だが、このときも「いずれは自分で起業したい」という思いがあった。そして、改めてイスラエルで出会った起業家たちの経歴を思い出してみると、「CEOの前職はCEO」すなわち、組織に属した後に起業するような人はいなかったことに気づいた。

「日本とは全然考え方が違いますよね。でも、僕にはイスラエルの人たちの考え方がしっくりきました。そこで、就職をやめて起業することに決めたのです」

このとき既に、後の議事録作成支援サービスにつながるアイデアは持っていたという。そこで染谷氏は、仲間集めに乗り出した。特に注力したのは、ピッチイベントへの参加だ。公の場でビジネスプランを発表することで、共感し、ともに実現をめざす仲間を募ったのだ。実際、共同創業者である藤井俊輔氏とはこのときに出会った。こうして現在のHutzpahへとつながるグループができあがり、起業家・染谷氏が誕生した。

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課題は人。教育機関とのつながり構築にも注力

コホート型教育サービスの展開に向けて染谷氏は、当面の最大の課題は人材だという。Hutzpahは現在、自社が良質な教育を提供できる講師集団となることをめざしている。そこで、コホート型教育の特性を理解し、成果を上げることができる講師の存在がカギを握るのだ。

スタートアップ企業の多くが課題として挙げる資金については、染谷氏は独自の考え方を持っている。

「ベンチャーキャピタルをはじめとして、現在は多種多様な資金調達の方法が整備されています。そのような時代においてどこからも資金支援を受けられないのであれば、それは僕たちのビジネスプランに可能性がないという意味です。そう割り切っているので、資金は課題とは位置づけていません」

現時点では、個人に対するサービス提供が事業の主軸となっている。B to Cで基盤を固めつつ、事業展開を加速させるためには学校や塾など、教育機関と提携することも欠かせないと染谷氏は考えている。そこで、官民のスタートアップ支援機関を通じて、教育機関へのつながりを広げていくことも、現在の重要な課題だ。

国内だけでなく、世界を見つめたビジネスプランを

近年、起業を志す学生が増えている。その1人でもある染谷氏自身は、学生による起業をどのように見ているのだろうか。

「先輩起業家や支援家のみなさんからアドバイスしてもらい、自分自身でもとても大切にしていることは、『学生が思いつくアイデアは、ほんの小さな市場しか見えていない』ということです。新しさやユニークさ、大胆さという強みを学生は持っていたとしても、やはり、見聞きしてきた世界の広さでは先輩方にかなわない面があります。自分たちの経験や日常という範囲から飛び出し、ぐっと広い視野でビジネスを考えることが大切ではないでしょうか」

この考え方を表すのが、社内で合言葉となっている「ホームランを打とう」というフレーズだ。ここには、小さい市場でコツコツとヒットを重ねるよりも、大きな市場を席巻できるようなサービスを生み出そうという思いが込められている。

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「ガラケー」がそうであったように、日本にはある程度の市場が存在しているがゆえに、商品やサービスは国内市場のみを見つめて独自の進化を遂げてしまう。結果、世界の潮流からは取り残されてしまう。そうではなく最初から世界を見つめ、世界市場が欲するサービスの創出をめざしているのだ。

「社内で議論をするときに、『それって世界で受け入れられる?』という言葉がよく登場します。判断基準を世界市場に置いていることが、当社の特徴の1つだと言えます」

学生時代は起業にとっては好機。自分らしさを活かし学生起業家としての人生を楽しむ

染谷氏は自身の性格を、「思ったことを遠慮なく口に出してしまう」と分析する。ともすれば協調性がないとも受け止められ、就職活動では自分を抑えよう、自分を隠そうとしていたという。しかし起業家になると一転して、「自分らしさ」が強みになった。

「思ったことを率直に表現し、議論しながらより良い答えを探していくのがスタートアップです。忖度や遠慮とは無縁の世界。とても心地良いです。就職活動まで経験したうえで起業にシフトしたのは、心のどこかに『このまま就職して後悔しないか?』という思いがあったからです。」

「それに学生であれば、たとえ失敗したとしてもやり直す時間はたっぷりとある。失敗だって、経験としてその先の人生に活かすことができる。そう考えると、学生ほど起業に向いている時期はないのかもしれません」

「僕たちはまだ、何も成し遂げていません。でも、いままででいちばんと言っていいほど、楽しい時間を過ごせています。起業は楽しいと、自信を持って言うことができますよ」と話す染谷氏。染谷氏の起業家としての挑戦はこれからも続く。

取材日:2022年1月31日
(取材・文:松本 守永)

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