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起業家ライブラリ

横田 裕子 氏

ローカルとグローバルを観光でつなぎ、真の観光立国をめざす

横田 裕子 氏

代表取締役
会社名株式会社AZOO
ウェブサイトhttps://www.wasimil.com/
事業内容・PMS、予約システム、CRMマーケティング、BI分析レポート機能を備えたホテルシステム『WASIMIL』の開発
・観光支援、地域活性化支援、宿泊業向けコンサルティング

人手不足の宿泊業界を悩ませる“システムの分断”

ホテル、旅館、簡易宿所などを合わせた宿泊施設は全国に約63,000軒あり、その数はコンビニエンスストアよりも多い。その80%近くは従業員が9人以下の小規模施設だ。旺盛なインバウンド需要を追い風に市場が拡大した2010年代、新型コロナウイルス感染症によって需要が一瞬にして消え去った2020年と、近年は浮き沈みの激しい業界だが、一貫して抱えている課題が人手不足だ。

この課題をデジタルで解決すべく、宿泊業向けのクラウドシステムや、自動チェックインを可能にするスマートロックなど、ソフトとハードの両面で多くのサービスが生まれている。特に予約状況や部屋割り、精算などを一括で管理できるPMS(ホテル管理システム)と呼ばれるものが多くのメーカーからリリースされ、各社が機能やUIの特徴を競っている。

それらのサービスとは一線を画し、PMSの機能はもちろん、マーケティングやBI分析などの機能も備え、ホテル経営の「攻め」の部分まで支援するシステムがある。京都に本社を置くスタートアップ、株式会社AZOO(以下、AZOO)が手がける『WASIMIL』だ。宿泊管理用のツール、CRM用のツール、経営分析用のツール…とこれまで別々のソフトを使い分けていた宿泊施設も、『WASIMIL』があればワンストップで完結する。業務を効率化しつつ、収益向上にも貢献してくれる心強いシステムだ。

株式会社AZOO

「小規模の宿泊施設の多くは、せっかくシステムを入れているのに、システムどうしの連携に労力を奪われているケースが少なくありません。例えば宿泊管理はPMSで自動化しているけど、売上分析をする際はエクセルに手作業で入力していたり。小規模になるほど人手も少ないのに、これでは肝心の集客に注ぐリソースが減ってしまいます」

株式会社AZOO

そう語るのは、代表取締役を務める横田裕子氏だ。サービス名の『WASIMIL』は、英語で『鋭い観察眼を意味するeagle eye』から着想を得たものだという。

「鷲のように一気に見渡して、一気に片づけられる。そんなサービスで宿泊施設が抱える課題を包括的に解決したい。そして、『データドリブンで観光立国を支援していく』のが弊社のミッションです」

ローカルとグローバルをつなぐキャリアの模索

横田氏がAZOO設立に至るまでには、いくつかの曲がり角がある。大学で環境工学を学び、就職活動では、『伝える』という行為でローカルとグローバルをつないだり、“地域を活性化したりする仕事がしたい”とテレビ局へ入社。テレビ番組の編成や映像制作を経験してきた。

「環境系の番組を作るなど、得意分野も生かしながら『伝える』ということに重点を置いてキャリアを積んできました。しかし、少しずつクリエイターとしての能力、特に“ストーリーを構成する力が足りない”と思うようになりました」

テレビ局はコンテンツを作ることが使命だ。そのスキルに限界を感じた横田氏は、5年近く勤めたテレビ局を退職。『伝える』とは違う文脈でローカルとグローバルを結ぶキャリアを模索し始めた。そこで出会ったのが『インドネシア政府奨学金』で、インドネシアの伝統文化や言語を学ぶ学生を世界から募集し、同政府が奨学金を出す制度だ。

「インドネシアは対日感情が良く、日系企業も数多く進出していて経済も発展していました。“インドネシア語というニッチなスキルを身に付けることで、キャリアとして別の道が開ける”と感じ応募しました」

株式会社AZOO

1年間、インドネシアの大学で文化を学んだ横田氏は帰国後、海外経験を生かし新たなキャリアをスタートさせる。環境省や日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力機構(JICA)などの非常勤職員や専門嘱託として、主に日本製品の海外プロモーション支援に従事。東南アジアをはじめインド、オーストラリアなどの政府との渉外や、WEBマーケティングのコンサルティング経験を積む。

「日本の企業を海外に進出させ、海外の需要を開拓する。まさにローカルとグローバルをつなぐ仕事で、そこに重きを置いて仕事に向き合っていましたが、その一方で課題も感じました。海外に進出できる企業には、やはり相応の経営体力が必要で、海外人材を育てたり海外に拠点を置いたりするのは、やはり中小企業にとってハードルが高い。その葛藤に悩まされました」

ちょうどその頃、日本の国内市場は急増するインバウンド需要に沸いていたが、その状況を見ていた横田氏に、ある思いが浮かぶ。

「中小企業が海外に出ていくのは難しい。でも外国から日本に来る需要があるなら、その需要を各地域の企業に浸透させることができる。そんな考えから、“観光という文脈でキャリアを築けないか”と思うようになりました」

「海外」の強みを生かしたプロダクト開発

“観光によってローカルを元気にしたい”、という横田氏の思いを実現へと導いたのは共同創業者の存在だ。カナダ出身の共同創業者は、不動産や宿泊業界でキャリアを積み、海外のホテルシステムに精通していた。

「海外には宿泊施設向けの一歩進んだシステムがありますが、日本はレガシーシステム(旧来の技術基盤で構築されたコンピュータシステム)で時代についていけてない。地方の旅館の廃業が相次いでいることもあり“何かいいシステムを作りたいね”という話をしていました。システムを作るにあたり重視したのは、単なる業務効率化だけでなく、その先のプロモーションやマーケティングも視野に入れたものにすること。私の地元は姫路ですが、姫路城だけ見て泊まらずに帰ってしまう観光客が多く、観光による経済効果の波及が課題でした。やはり宿泊を通じて長く滞在してもらうことが地域の活性化には必要です。だから、業務効率化はもちろん、個々の宿泊施設の集客力を伸ばすためのマーケティングまでサポートするシステムにしたかったんです」

まず取り組んだのは、システムを開発するためのエンジニア集めだ。こちらは主に共同創業者が担当し、IT人材の獲得競争が激しい国内は避け、最初から海外のエンジニアにも声をかけていったという。そのメリットについて横田氏は次のように語る。

「海外は人材のプールが日本よりも大きいので、見つけやすいです。一方で彼らは欧米の企業から最新のシステム開発を受託してきた経験を持っているため、スキル面では一歩進んでいるところがあります」

株式会社AZOO

その後は京都府の補助金を受けながら開発を進め、プロダクトは少しずつ形になっていった。補助金の条件が『最終的に京都で起業すること』だったこともあり、2020年に株式会社AZOOを設立。その後もしばらくは開発期間が続いた。

「私たちはさまざまなクラウドサービスの機能を統合しつつ、日本の商習慣にも合ったシステムをめざしてきたので、開発には時間をかけました。チームには元々宿泊業界で仕事をしていたスタッフも加え、リサーチと改良をくり返してきました」

データドリブンで真の観光立国をめざす

約3年の開発期間を経て、2022年に『WASIMIL』はついに製品版をリリース。いよいよ本格的な事業展開のフェーズを迎えた。現在はUIの改良を重ね、導入先の拡大に向けた体制づくりの最終段階にある。

「現在はセールスのスタッフも加わり、一気に販路を拡大したいところですが、ホテルシステムは毎日使うものなので、お客様へのサポート体制も整える必要があります。プロダクトのアップデートと販路開拓、サポート体制の整備、人材採用、資金調達…とめまぐるしい毎日です」

創業時からフルリモートで、チームを構築し、社内の一体感やモチベーションを保つため、バーチャルオフィスを活用し、ミーティングや社内イベントを行っている。事業が本格化してきた今、リアルなオフィスを設けてコアチームを作り、事業を加速させる計画も立てているという。その先に見据えるのは2025年の大阪・関西万博だ。

「万博が終わった頃には、ホテルシステムの10分の1くらいの市場を獲得しているのが目標です。同時に地方自治体と一緒に観光振興にも取り組みたいと考えています。『WASIMIL』を通じて、どの国の旅行者が、何人のグループで、何日間、どこに滞在したか、などのデータが蓄積されるので、それを基に観光プロモーションを行い、地方創生にも貢献していきたいですね」

株式会社AZOO

ローカルとグローバルをつなぐという横田氏の思いは、データの力によって着実に実を結ぼうとしている。その先にある日本の未来について、最後にビジョンを語ってくれた。

「私は1985年生まれで、物心ついた頃からバブル崩壊後の不景気とともに過ごしてきました。一方でかつて滞在したインドネシアは経済成長の真っ只中で、日本とは活気が全然違いました。日本が再び元気になる上で、観光産業による地方の活性化は欠かせません。データの力で観光産業を進化させ、日本が観光立国によって元気を取り戻す。そんな未来を思い描いています」

取材日:2023年1月20日
(取材・文 福井 英明)

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