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起業家ライブラリ

福塚 淳史 氏

水耕栽培をサポートする多機能ドローン『Hydrobot』で、日本の農業と自らの未来を切り拓く。

福塚 淳史 氏

大学院生(2020年1月取材当時)
学校名関西大学
事業内容関大の技術シーズである、移動体の群制御技術を活用したスマート農業の実用化。

ふたつのコンテストで大きな成果を挙げたビジネスアイデア『Hydrobot(ハイドロボット)』

「いつの日か日本の農家が抱える問題や課題を解決し、より良い方向に変えていきたい」 ――そう話すのは、関西大学大学院 M1の福塚 淳史氏だ。現在、理工学研究科、ロボット・マイクロシステム研究室に所属し、物流ロボットにおける吸着型ロボットハンドの研究を行っている。

そうした学業のかたわら、2019年、学内で開催されるアントレプレナーシップの醸成を目的とした「ビジネスアイデアコンテスト“SFinX”」に参加。同学理工系学部の研究成果を題材に学生が事業化に向けてビジネスアイデアを考案するもので、新規性・的確性・市場性・優位性・表現力の5つの指標をベースとした厳正な審査の結果、福塚氏たちチームが最優秀賞を獲得した。

そして2019年の12月、関西大学の推薦を受け、大阪イノベーションハブが主催するピッチイベント「ミライノピッチ2019」に登壇。学生部門において、世界に通用するビジネスモデルに与えられる「OIH賞」を受賞するという快挙を果たした。

それら、大きな成果を残した福塚氏たちチームの発表テーマは、「SFinX」の題材のひとつであった関大の技術シーズを活用した、ハウス栽培農家の抱える課題を解決する多機能ドローン『Hydrobot(ハイドロボット)』だ。 そこには、冒頭に述べた技術者としての強い想いが込められており、スタートアップという自分自身の将来の可能性を、大きく広げてくれる契機になったという。

 

小さな中山間地の農業を助けたいという想いが新たな道を切り拓く

そもそも、福塚氏が中山間地の農業に興味を持ったのは中学生の時。「長年農業を営んできた祖父が他界し、家族内で誰が跡を継ぐのかを話し合ったのがきっかけ」だと話す。 「私が生まれ育った奈良県五條市は小さな街で、いわゆる中山間地の農業。祖父の他界をきっかけに過疎化や高齢化といったさまざまな問題を改めて身近に感じ、なんとか農家を変えていけないかなと思ったのが、思えば最初の一歩でした」と福塚氏。そこで、農機具や農業機械に興味を抱くようになり、それらの開発に携わる技術者をめざそうと大学に進学後決意した。

そんな福塚氏が考案した『Hydrobot(ハイドロボット)』は、まさにその想いを実現するためのものだ。企画に際しては農業の現場でヒヤリングを行い、人手不足により病害検知が十分にできないこと、農薬散布の際に気分を害すること、知識・経験不足によって野菜の生育が上手く行かないことの大きく3つの悩みにフォーカス。それらの悩みに対し、ドローン群の制御を実現するための学内の技術シーズに、病害検知と害虫探索、農薬散布、データを活用した育成管理という3つの機能を発揮させ、人による作業をより効率的かつ確実、スピーディにサポートするという内容だ。

高齢化や過疎化の進行による労働力不足は日本全体の課題でもあり、世界規模で解決すべき課題でもある。『Hydrobot(ハイドロボット)』が持つビジネスとしての可能性は高く評価され、「ビジネスアイデアコンテスト2019“SFinX”」での最優秀賞受賞、「ミライノピッチ2019」での「OIH賞」受賞につながっていく。 仲間と一緒に夜遅くまで頑張り、懸命に臨んだふたつのコンテスト。そこで認められたことが一つの自信になり、福塚氏の視野には「起業」という新たな道が見えてきたという。

 

アイデアから実業へ。リアルと向き合うことで見えてくる課題と目標

「とはいえ、将来に向けて課題は山積みといったところ。技術者としてもまだまだ未熟で、学ぶべきことがたくさんあります」。 そんな風に話す福塚氏は、現在、「AIDOR(アイドル)アクセラレーション」に参加中。大阪産業局が主催するIoTビジネスに特化した約4か月のビジネス創出プログラムで、IoT・ロボットサービスに精通する専門コーディネーターによるハンズオン支援や先輩起業家からのメンタリング、IoTの技術に関する基礎知識講座と実践ワークショップ、そして、ビジネスアイデアをプレゼンテーションするデモデイといったプログラムを受けている。

「コンテストでは認められた『Hydrobot(ハイドロボット)』ですが、実際のビジネスモデルとして見た時には、まだまだクリアしなければならない課題が数多くあります。先輩起業家の方やメンターの方とのメンタリングでは、“本当に農家さんの悩みを解決するアイデアになっているのか?”“万が一ドローンが落下した場合、どう対処するのか?”など鋭い指摘や厳しい意見を受けていくなかで、正直心が折れそうになることも少なくありません。でもその分、自分のやるべき方向性や解決すべき項目が明確になってきて、今後の目標というか、さらなる意欲につながっていますね」と笑顔を見せる。

そして、自分自身についても、技術者としてスキルアップを図ると同時に、人に伝えるチカラや主体的に動き人を巻き込んでいくチカラなど、起業家としての資質を身に付ける必要性を痛感。しっかりと“リアル”と向き合っていくことで、一歩一歩着実に前進しているところだ。

 

夢の実現に向けて、技術者として、人間として、さらなる成長をめざす

福塚氏の目下の目標は、「AIDORアクセラレーション」のプログラムのひとつであるデモデイで『Hydrobot(ハイドロボット)』についてのプレゼンテーションをやり遂げること。先輩起業家やメンターのアドバイスを受けながら、さらなるブラッシュアップに取り組んでいる。

将来のスタートアップとして確かな道筋が拓けたように思われるが、福塚氏がめざしているのは、いきなりの起業ではなく就職だという。 「今回、ビジネスコンテストへの参加やアクセラレーションプログラムの受講など、一般の学生ではなかなか経験できない貴重なチャンスをいただき、本当に多くのことを学ぶことができていると思います。だからこそ、今の自分に足りないものが見えてきて、技術者として農家さんを助けたいという夢を叶えるためにも、まずは企業組織のなかで社会経験を積み、人間として成長してから起業を実現させたいと考えるようになりました」と福塚氏。

大学院での学びも、あと1年間。組織をつくり動かすリーダーシップを育む一方で技術者としての専門性を高め、「他の人には絶対に負けない、自分だけのとがった強みを身に付けたい」と意欲を見せる。 「就職であっても、起業であっても、根底にあるのは農家さんを助けたいという想い。それは大学に入ってからずっと変わらずに、ブレずに来ている自分自身の軸のようなものです。いろんなアドバイスをいただきながらもしっかりと自分の軸を持ち続け、自分なりの答えを見つけていきたいですね」。 福塚氏の未来への挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。

取材日:2020年1月29日
(取材・文 山下 満子)

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